音のドップラー効果

高校の物理で習うドップラー効果の式の導出が理解できなかった。理解できないまま高校を卒業して,なまじ相対論なんかかじったものだから,同じ相対速度なのにどうして観測者が動くか,音源が動くかで答えが違うのか理解できなかった。相対速度が同じなら物理も同じだろう,それが相対性原理だろう… などうそぶいて誤った考えを持ちそうになったので,あらためて(学生に聞かれてもしっかり答えられるように)まとめてみた。ただし,標準的な教科書に載っている解説と同じでは面白くないので,ちょっと独自色を出してみた。

 

$$f’ = f \frac{V – v_o}{V – v_s}$$

 

波を表す諸量のおさらい

  • 波長:$\lambda$
    波1つ分の長さ
  • 振動数:$f$
    1秒間に何回,波がプルプルと振動するかを表す。
  • 周期:$T$
    波が1回プルッと振動するのにかかる時間 $\displaystyle T = \frac{1}{f}$
  • 波の伝わる速さ(音の場合は音速):$V$
    波1つ分の長さ $\lambda$ を進むのに時間 $T$ かかるのだから $\displaystyle V = \frac{\lambda}{T} = \lambda f$

そもそも何に対する速さか

ガリレイ変換とか速度の合成則とかいう言葉をご存知であれば,波の伝わる速さは $v$ である,といったとき,「それは何に対する速さか」に意味があることはおわかりだろう。

音速を $V$ と書くことにするが,これは何に対する,あるいはどのような静止系に対する速さかということを,くどいようだが,はっきりさせておく。

おおよそ波というものには,それが伝わっていく媒質というものが必要である。音を伝える媒質は(水中とか,個体中・金属中とかでなければ,通常は)空気である。

従って,音速とは,媒質である空気の静止系に対する速さである。媒質(空気)静止系に対して静止している観測者が観測する,波としての音の伝わる速さである。(これを「風がないとき」などと風流な言い方をする場合もある。)

観測者が媒質静止系に静止している場合

観測者が媒質(空気)静止系に静止している場合,観測する音速 $V$ と波長 $\lambda$,振動数 $f$ の関係は,定義により
$$V =\lambda f, \quad \therefore\ \ f = \frac{V}{\lambda}$$

これからおさらいするように,観測者や音源の運動によって,観測する振動数が変化するのがドップラー効果である。上記の式からわかるように振動数 $f$ を変化させる要因は以下の2つ。

  • 要因1:音速がかわる。(速度の合成則により,観測する音速が変わるのはありうる。)
  • 要因2:波長がかわる。(ローレンツ収縮でもしない限り長さが変わるなどということは考えなくてもよいだろう。)

要因1が音のドップラー効果のキモである。

ここではまず,観測者が運動している場合の,振動数を変化させる要因についておさらいする。

観測者が媒質静止系に対して運動している場合

音源が媒質静止系の原点に静止し,観測者 (observer の $o$) が速度 $v_o$ で音源から$x$ の正方向へ遠ざかっている場合。

運動する観測者にとっては,速度の合成則により,音速が以下のように変化する。
$$V’ = V – v_o$$

したがって,この観測者が観測する振動数は
$$f’ = \frac{V’}{\lambda} = \frac{f}{V} V’ = f \frac{V – v_o}{V}$$

音源が媒質静止系に対して運動している場合

観測者が媒質静止系に対して静止し,音源 (source の $s$) が速度 $v_s$ で観測者から$x$ の正方向へ遠ざかっている場合。

媒質静止系に対して,速度 $v_s$ で $x$ の正方向へ運動する別の慣性系 $S’$ で考えると,これは音源が静止し,観測者が $v_s$ で遠ざかっている場合と同等であるから,上で求めた式がそのまま使えるはずである。

ただし,この場合,$S’$ 系では速度合成則により,音速が $V \rightarrow V^{”} = V + v_s$ になる。

したがって

$$f’ = f \frac{V^{”} – v_s}{V^{”}} = f \frac{(V + v_s) – v_s}{V + v_s}  = f \frac{V }{V + v_s} $$

観測者・音源ともに運動している場合

合わせ技で

$$f’ = f \frac{V – v_o }{V + v_s}$$

… という理解はどうでしょうか。

全ての速度は媒質(空気)静止系に対する速度であるということをあからさまにし,速度の合成則だけを使って説明しているところが,オリジナルっぽいと思うのですが…