赤方偏移の統一的理解

赤方偏移とは,宇宙天文分野において遠方からの電磁波の波長が長いほうにずれて観測される現象をさす.振動数は波長に反比例するので,振動数が小さいほうにずれて観測されると言いかえてもよい。

赤方偏移の要因としては

  1. 光源の後退速度によるドップラー効果
  2. 重力源近傍からの光が受ける重力赤方偏移
  3. 宇宙膨張によって引き起こされる宇宙論的赤方偏移

があるが,遠方からの電磁波の観測という同一事象であるにもかかわらず,それぞれの要因ごとに別々の説明がされているのが現状である。

ここでは,まず世の中の教科書では,赤方偏移がその要因ごとにどのように説明されているかをおさらいする。そして,ローレンツ変換によらない相対論の統一的理解の立場から,2つの原理原則によってこれらの赤方偏移が統一的に理解できることを示す。

このセクションの構成

光のドップラー効果・光行差のおさらい

世の中の教科書では光のドップラー効果はどのように説明されているか。例えば,「相対性理論」(中野董夫著,岩波書店)の p. 87 あたり等を参考にして,ローレンツ変換にもとづいた光のドップラー効果の説明について,おさらいする。

重力赤方偏移のおさらい

世の中の教科書では,重力赤方偏移はどのように説明されているか。例えば「一般相対性理論」(内山龍雄著,裳華房)の§37. を参考に,notation を若干変更しておさらいする。また,このテキスト中の間違いについても指摘しておく。

宇宙論的赤方偏移のおさらい

世の中の教科書では,宇宙論的赤方偏移はどのように説明されているか。例えば,「ワインバーグの宇宙論(上)」(ワインバーク著,日本評論社)の 1.2 節を参考に,notation を若干変更し,重力赤方偏移の説明とパラレルになるように論調をあわせておさらいする。

ローレンツ変換によらない赤方偏移の統一的理解

統一的理解に向けた準備

ここでは,以下の2つの原理原則から,これらの赤方偏移が統一的に理解できることを示す。

I. 4元波数ベクトル \(\boldsymbol{k}\) であらわされる電磁波はヌル測地線上を伝播する。

$$ \frac{d\boldsymbol{k}}{dv} = \boldsymbol{0}, \quad \boldsymbol{k}\cdot\boldsymbol{k} = 0$$

測地線方程式は4元波数ベクトルの下付添字成分 \(k_{\mu} = g_{\mu\nu} k^{\nu}\) について以下のように書くことができるので,これを利用する。$$\frac{dk_{\mu}}{dv} = \frac{1}{2} g_{\alpha\beta, \mu} k^{\alpha} k^{\beta}, \quad g_{\alpha\beta} k^{\alpha} k^{\beta} = 0$$

II. 4元速度 \(\boldsymbol{u}\) の観測者が観測する電磁波の振動数 \(\omega\) は以下のような4次元スカラーで書ける。

$$ \omega = – \boldsymbol{k}\cdot\boldsymbol{u} = – k_{\mu} u^{\mu}$$

シュバルツシルト時空中を動径方向に運動する観測者による光のドップラー効果

世の中の教科書による標準的な説明では,光源あるいは観測者の運動による光のドップラー効果は,重力がない場合の特殊相対論的状況でのみ有効であるローレンツ変換を用いて説明されていた。重力がある場合は,ローレンツ変換が成り立たないため,別途理屈を考える必要があるのであった。

一方で,重力赤方偏移の標準的な説明は,重力場中において光源も観測者も静止している場合にのみ有効であった。

では,重力場中を運動する観測者の観測する光の振動数(や波長)を調べるにはどうすればよいか?

シュバルツシルト時空中を動径方向に運動する光源による光のドップラー効果

シュバルツシルト時空中を円運動する光源による横ドップラー効果

シュバルツシルト時空中を円運動する観測者による横ドップラー効果