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重力赤方偏移のおさらい

世の中の教科書では,重力赤方偏移はどのように説明されているか。例えば「一般相対性理論」(内山龍雄著,裳華房)の§37. を参考に,notation を若干変更しておさらいする。また,このテキスト中の間違いについても指摘しておく。

シュバルツシルト時空は

\begin{eqnarray}
ds^2 &=& g_{00} dt^2 + g_{11} dr^2 + r^2 \left(d\theta^2 + \sin^2 \theta \,d\phi^2 \right)\\
&=& – \left(1 – \frac{r_g}{r}\right)dt^2 + \frac{1}{1 – \frac{r_g}{r}}dr^2 + r^2 \left(d\theta^2 + \sin^2 \theta \,d\phi^2 \right)
\end{eqnarray}

内山本では,太陽表面 \(r = r_{\odot}\) からの光を地球位置 \(r = r_E\) で観測する,と決め打ちしているが,ここでは一般に重力源近傍 \(r = r_1\) からの光を離れた場所 \(r = r_2\,  (> r_1)\) で観測する,と若干 notation を変更して説明を続ける。

また,内山は「光の進路はヌル測地線」と明言しているが,実際には「ヌル条件」のみを使用し,「測地線」であることはあからさまには使っていないように思われる。(測地線であることは光の伝播を理解するために必要であると思うのだが,どこで測地線条件を使っていることになるのか,ちょっと見抜けずにいます。)

ヌルであるから,シュバルツシルト時空において動径方向に放出された光について

$$ds^2 = – \left(1 – \frac{r_g}{r}\right) dt^2 + \frac{1}{1 – \frac{r_g}{r}} dr^2 = 0$$
$$ \therefore\ \ dt = \pm \frac{1}{1 – \frac{r_g}{r}} dr$$

光の進路が外向きであるとすると,\(dt > 0\)(時間が経過する)のとき \(dr > 0\) (\(r\) の値が大きくなる)ので復号の \(+\) 側になり,

$$dt = \frac{1}{1 – \frac{r_g}{r}} dr$$

\(r = r_1\) から \(t = t_1\) に放出された光が,\(r = r_2\) に \(t = t_2\) に到着する,とすると,

$$\int_{t_1}^{t_2} dt = \int_{r_1}^{r_2} \frac{1}{1 – \frac{r_g}{r}} dr$$

\(r = r_1\) で \(n\) 個(\(n\) 回振動分,あるいは \(n\) 波長分)の波を放出する。最後の波が放出された時刻が \(t = t_1 + \Delta t_1\)。

\(r = r_2\) に最後の波が到着する時刻を \(t = t_2 + \Delta t_2\) とすると,

\begin{eqnarray}
\int_{t_1+ \Delta t_1}^{t_2+ \Delta t_2} dt &=& \int_{r_1}^{r_2} \frac{1}{1 – \frac{r_g}{r}} dr\\
\therefore\ \ \int_{t_1}^{t_2} dt &=& \int_{t_1+ \Delta t_1}^{t_2+ \Delta t_2} dt \\
t_2 – t_1 &=& \left(t_2+ \Delta t_2 \right) – \left(t_1+ \Delta t_1 \right) \\
\therefore\ \ \Delta t_1 &=& \Delta t_2 \equiv \Delta t
\end{eqnarray}

座標時間の間隔が変わらず等しくなる(\( \Delta t_1 = \Delta t_2\))のは,直接的には \(g_{00}\) および \(g_{11}\),ひるがえっては全ての計量 \(g_{\mu\nu}\) が時間座標 \(t\) によらないこと,つまり静的な時空であることによる。また,光源および観測者が静止している(時間が経過しても \(r = r_1\) および \(r = r_2\) に居続ける)ことも重要である。

座標時間が \(\Delta t\) だけ経過する間に,\(r = r_1\) の静止観測者の固有時間

$$ds^2 = – d\tau^2 = – \left( 1 – \frac{r_g}{r}\right) dt^2$$

より,$$\Delta \tau_1 = \sqrt{1 – \frac{r_g}{r_1}} \Delta t_1 = \sqrt{1 – \frac{r_g}{r_1}} \Delta t$$だけ経過し,

\(r = r_2\) の静止観測者の固有時間は$$\Delta \tau_2 = \sqrt{1 – \frac{r_g}{r_2}} \Delta t_2 =\sqrt{1 – \frac{r_g}{r_2}} \Delta t$$だけ経過する。

世の中の教科書では,異なる場所における座標時間間隔が等しい \( \Delta t_1 = \Delta t_2 \) という事実ありきからはじまって,それぞれの固有時間間隔が上記のようになるとする説明も多く見かけられるが,\( \Delta t_1 = \Delta t_2\) は(わたくし的にはそんなに自明なことではなかったので)上記のように丹念に導く必要があると考える。(まぁ,単にものわかりが悪いだけです。)

さて,ここが大事なポイントだが,観測者が観測する光の振動数は,波の個数を(座標時間間隔 \(\color{blue}{dt}\) で割ったものではなくて)固有時間間隔 \(\color{red}{d\tau}\) で割ったものである!とする。

\(r = r_1\) の静止観測者が観測する光の振動数 \(\nu_1\) は

$$\nu_1 = \frac{n}{\Delta \tau_1}$$

この同じ光を \(r = r_2\) の静止観測者が観測すると,その振動数 \(\nu_2\) は

$$\nu_2 = \frac{n}{\Delta \tau_2}$$

$$\therefore\ \ \frac{\nu_2}{\nu_1} = \frac{\Delta \tau_1}{\Delta \tau_2} = \frac{\sqrt{1 – \frac{r_g}{r_1}} \Delta t}{\sqrt{1 – \frac{r_g}{r_2}} \Delta t} = \frac{\sqrt{1 – \frac{r_g}{r_1}} }{\sqrt{1 – \frac{r_g}{r_2}}} < 1\ \ (\because r_1 < r_2)$$

特に \(r_2 \gg r_1\) の場合は,\(r_2 \rightarrow \infty\) として

$$\frac{\nu_2}{\nu_1} \simeq \sqrt{1 – \frac{r_g}{r_1}}$$

これが内山本の (37.5) 式。

ここからが,この本のおかしな点。この (37.5) 式を波長を用いて書き換えるのだが,「まず,光の \(r\) 方向の速さを \(v\) とすれば

$${v = \sqrt{g_{11}} \frac{dr}{\color{blue}{dt}}}$$

となる」旨の記述がある。動径方向の座標変位 \(dr\) に対応する空間的長さ \(d\ell\) は

$$d\ell^2 = g_{11} dr^2, \quad \therefore\ \ d\ell = \sqrt{g_{11}} dr$$また,ヌルであるから$$g_{00} dt^2 + g_{11} dr^2 = 0, \quad \therefore\ \ \sqrt{g_{11}} {dr} = \sqrt{-g_{00}} dt$$

となるのは良いとしても

$$v = \frac{d\ell}{dt} = \sqrt{g_{11}} \frac{dr}{\color{blue}{dt}}$$

のように座標時間 \(\color{blue}{dt}\) で割るのはいかがなものか。

振動数の定義のところで,座標時間が \(\color{blue}{dt}\) 経過するとき,静止観測者にとっては固有時間 \(\color{red}{d\tau}\) が経過する時間であるという仮定を使っているので,ここでも観測者が測定する速さは空間的長さ \(d\ell\) を固有時間 \(\color{red}{d\tau}\) で割るべきかと思う。

この定義を採用すると,

$$v = \frac{d\ell}{\color{red}{d\tau}} = \sqrt{g_{11}} \frac{dr}{\color{red}{d\tau}} = \sqrt{-g_{00}} \frac{dt}{\sqrt{1-\frac{r_g}{r}}dt} = 1 = c$$

(ここでは \(c=1\) としていたことに注意。)

つまり,重力場中でも静止観測者が観測する光の速さは \(v = c\) で一定となる。

これを使うと,波長 \(\lambda\) と振動数 \(\nu\) の関係は

$$\lambda \nu = c, \quad \therefore\ \ \lambda \propto \frac{1}{\nu}$$

したがって

$$\frac{\lambda_2}{\lambda_1} = \frac{\nu_1}{\nu_2} = \frac{\sqrt{1 – \frac{r_g}{r_2}} }{\sqrt{1 – \frac{r_g}{r_1}}} > 1$$

特に \(r_2 \gg r_1\) の場合は,\(r_2 \rightarrow \infty\) として

$$\frac{\lambda_2}{\lambda_1} \simeq \frac{1}{\sqrt{1 – \frac{r_g}{r_1}}} = \left( 1 – \frac{r_g}{r_1}\right)^{\color{red}{-\frac{1}{2}}}$$

となるべきである。内山本 (37.7) 式はこのように訂正されるべきであると考える。