Return to 赤方偏移の統一的理解

ローレンツ変換によらない赤方偏移の統一的理解

統一的理解に向けた準備

ここでは,以下の2つの原理原則から,これらの赤方偏移が統一的に理解できることを示す。

I. 4元波数ベクトル \(\boldsymbol{k}\) であらわされる電磁波はヌル測地線上を伝播する。

$$ \frac{d\boldsymbol{k}}{dv} = \boldsymbol{0}, \quad \boldsymbol{k}\cdot\boldsymbol{k} = 0$$

測地線方程式は4元波数ベクトルの下付添字成分 \(k_{\mu} = g_{\mu\nu} k^{\nu}\) について以下のように書くことができるので,これを利用する。
$$\frac{dk_{\mu}}{dv} = \frac{1}{2} g_{\alpha\beta, \mu} k^{\alpha} k^{\beta}, \quad g_{\alpha\beta} k^{\alpha} k^{\beta} = 0$$

II. 4元速度 \(\boldsymbol{u}\) の観測者が観測する電磁波の振動数 \(\omega\) は以下のような4次元スカラーで書ける。

$$ \omega = – \boldsymbol{k}\cdot\boldsymbol{u} = – k_{\mu} u^{\mu}$$

光源の後退速度によるドップラー効果

特殊相対論的状況においては,

$$g_{\alpha\beta, \mu} \Rightarrow \eta_{\alpha\beta, \mu} = 0$$

であるから,測地線方程式は4元波数ベクトルすべての成分 \(k_{\mu} \equiv \eta_{\mu\nu} k^{\nu}\) が一定であることを意味する。

$$\frac{dk_{\mu}}{dv} = 0 \ \Rightarrow \ k_{\mu} = \mbox{const.}$$

つまり,光源から放たれたときも観測者が観測するときも同じ \(k_{\mu}\) でよい。

これを使い,静止観測者 \(A\) が観測する振動数を

$$\omega_{\rm obs} \equiv – k_{\mu} u^{\mu}, $$

光源とともに運動する観測者 \(B\) が観測する振動数を
$$\omega_0 \equiv – k_{\mu} \bar{u}^{\mu} $$
として,光源が運動する場合のドップラー効果の式
$$\omega_{\rm obs} = \omega_0 \frac{\sqrt{1-V^2}}{1-V \cos\theta}$$
がすでに別ページで求められている。

特に光源が静止観測者から遠ざかる場合は \(\theta = \pi\) であり,

 

$$\omega_{\rm obs}= \omega_0\frac{\sqrt{1-V^2}}{1 + V} = \omega_0 \sqrt{\frac{1-V}{1+V} } < \omega_0$$

となり,振動数は小さく,したがって波長が伸びて観測される。

よってローレンツ変換を使わずに2つの原理原則から光源の後退速度によるドップラー効果を説明することができる。

 

重力源近傍からの光が受ける重力赤方偏移

重力源近傍の時空はシュバルツシルト解
$$ds^2 =  -\left(1-\frac{r_g}{r}\right) dt^2 + \frac{dr^2}{1-\frac{r_g}{r}} + r^2 (d\theta^2+\sin^2\theta d\phi^2)$$
で表されるとする.ここで \(r_g \equiv 2 G M\) は重力半径。

シュバルツシルト時空の計量テンソルは \(t = x^0\) によらないから\(g_{\alpha\beta, 0} = 0\).これからただちに
$$\frac{dk_{0}}{dv} =0  \ \Rightarrow \ k_0 = \mbox{const.} \equiv – \omega_c$$
とおけることがわかる。

一方,シュバルツシルト時空中の静止観測者の4元速度 \(u^{\mu}\) は(「静止」だから空間座標が一定であることと規格化条件 \(u_{\mu} u^{\mu} = -1\) から)
$$u^{\mu} = \left(u^0, 0, 0, 0\right) = \left(\frac{1}{\sqrt{1-\frac{r_g}{r}}}, 0, 0, 0 \right)$$
と書ける。したがって,この観測者が観測する光の振動数は
$$\omega = – k_{\mu} u^{\mu} = – k_0 u^0 = \frac{\omega_c}{\sqrt{1-\frac{r_g}{r}}}$$
となり,同じ光を観測しても,その振動数 \(\omega\) は観測者の位置を表す動径座標 \(r\) に依存することになる。

特に,\(r=r_1\) で振動数 \(\omega_1\) の光を \(r = r_2 > r_1\) で観測者が観測すると,その振動数 \(\omega_2\) は
$$\frac{\omega_2}{\omega_1} = \frac{\sqrt{1-\frac{r_g}{r_1}}}{\sqrt{1-\frac{r_g}{r_2}}} < 1, $$
$$\therefore\ \ \omega_2 < \omega_1$$
となり,重力源に近い場所から放射された光を離れた場所で観測すると,振動数は小さく,したがって波長は伸びて観測される。このようにして,2つの原理原則から光の重力赤方偏移を説明することができる。

宇宙膨張によって引き起こされる宇宙論的赤方偏移

一様等方な膨張宇宙の計量は \(a d\eta\ = dt\)  で定義される共形時間 \(\eta\) を使って以下のように書くと便利である。
$$ ds^2 = a^2(\eta) \left\{-d\eta^2 + \frac{dr^2}{1- k r^2} + r^2 (d\theta^2+\sin^2\theta d\phi^2) \right\}. $$
ここで \(k\) は3次元定曲率空間の曲率定数である。

測地線方程式の第ゼロ成分は,ヌル条件を使うと
$$\frac{dk_{0}}{dv} = \frac{1}{2} g_{\alpha\beta, 0} k^{\alpha} k^{\beta} = \frac{1}{a}\frac{da}{d\eta} g_{\alpha\beta} k^{\alpha} k^{\beta} =0$$
となり,ただちに
$$k_0 = \mbox{const.} \equiv – \omega_c$$
とおけることがわかる。

一方,膨張宇宙における共動観測者の4元速度は(膨張宇宙においては空間座標が一定であることを「共動」と言う)\(g_{00}(u^0)^2 = -1\) より
$$u^{\mu} = \left(u^0, 0, 0, 0 \right) = \left(\frac{1}{a}, 0, 0, 0 \right)$$
と書ける.したがって,この観測者が観測する光の振動数は
$$\omega = – k_{\mu} u^{\mu} = -k_0 u^0 = \frac{\omega_c}{a(\eta)}$$
となり,共動観測者が観測する振動数は,光が放出された時刻のスケール因子 \(a(\eta)\) に反比例することがわかる。

特に時刻 \(\eta = \eta_e\) に共動観測者が振動数を \(\omega_e\) と測定した光を,
現在時刻 \(\eta = \eta_0 > \eta_e\) に測定するときの振動数を \(\omega_0\) とすると,
$$\frac{\omega_0}{\omega_e} = \frac{a(\eta_e)}{a(\eta_0)} < 1$$
となり,宇宙初期に放射された光を現在観測すると,振動数は小さく,したがって波長は伸びて観測される。このようにして,2つの原理原則 から光の膨張宇宙における赤方偏移を説明することができる。