この投稿では、第四紀研究に掲載された下記の論文について紹介します。
道家涼介・安江健一(2024)SAR強度画像の比較による令和6年能登半島地震に伴う海岸線の変化,第四紀研究,63,163-168.doi: 10.4116/jaqua.63.2405
論文の概要
令和6年1月1日に発生した能登半島地震では、陸地の隆起により海岸線の位置が大きくするという顕著な地殻変動が観測されました。地震によりこのような顕著な海岸線の変化が生じるのは、我々人間のライフスパンの中では非常に稀であり、能登半島における地形の成り立ちや、類似する地形を有する地域における地震発生のリスクを考える上で、この現象について記録を残すことは重要であると言えます。
本研究では、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が運用する陸域観測技術衛星「だいち2号」が取得したデータを用いて、地震前後の海岸線の位置の検出を試みました。「だいち2号」は合成開口レーダー「PALSAR-2」を搭載した衛星で、衛星から放った電磁波が地表で散乱し跳ね返ってきた時の「強度(振幅)」と「位相」を観測します。この内「強度」については、水面で電磁波が反射することから、衛星方向に返る電磁波の強度が極めて弱くなることが知られています。したがって、地震前後の強度画像を比較することで、能登半島地震により陸地化した範囲を知ることができます。
解析の結果を以下に示します。下図では、地震前の強度画像を赤色に、地震後の強度画像を青、緑に割り当てて、RGB合成をしています。したがって、地震後に強度が上昇した箇所は青緑色に表示されることになります。海岸線に沿って青緑色の箇所が連続的に分布しているのが分かるかと思いますが、これは、令和6年能登半島地震により陸地化した範囲に対応します。この地震による隆起が最も顕著だった能登半島の北西部において、先行研究により約4mの隆起が検出されていますが、同地域において約200mの海岸線の後退が認められました。
また、岩石海岸では顕著な強度上昇が認められた一方で、砂浜が広く分布している地域では、強度の上昇が認められず、隆起していても必ずしも、本手法で検出できる訳でもないことを分かりました(上図の鹿磯付近など)。これは、砂浜が平坦な地形しているためで、衛星方向に返る電磁波の強度が極めて小さいためと考えられます。したがって、災害発生時には、光学衛星画像、空中写真、現地調査など、さまざまな手法の結果と比較し、総合的に現象を理解することが重要であると言えます。
謝辞
ALOS-2による観測データはJAXAが公開しているものを使用しました。この場を借りて感謝申し上げます。