先月、西日本に位置するとある自治体の方から、夜間にイナゴが光に集まってきて苦情が来ているため、困っているという相談がありました。

バッタ類が光に集まっている光景はあまりイメージがわかないので、何かの間違いかなぁと思いました。

私もバッタ採りをすることがありますが、昼に近づくと飛翔して逃げますが、夜はじっと草にしがみついている印象です。

温度が高い日中でないと跳ね回ったりしないのだと思います。

 

だから、夜に活動すること自体が起こりそうもないし、そもそも昼行性の昆虫が光に多数集まることはないだろうなと思いました。

*昼行性だからといって、走光性がないとは言えないようですが、光に多数が集まる状況は起こりにくいでしょうね。

 

念の為に、長年イナゴの研究をしていた安藤名誉教授にも話してみましたが、そんなことは起こらないのではないかということでした。

安藤先生は弘前大学の現役時代に、大学の屋上でコバネイナゴの採集をしていたのでした。

その結果、コバネイナゴの長翅型が特定の時期の日中にのみ飛翔しているのを見出しています。

私も何かの間違いかなぁと思ったのでした。

バッタではない別の昆虫をイナゴと間違っているのか、たまたま近くにいたイナゴが数匹光のところに居たとか、まあそういった間違いかなと。

 

先方に写真がないか尋ねたところ、数日後に送られてきました。

確かにイナゴでした。しかも色合いから判断するに、ハネナガイナゴっぽいです。

ライトトラップをよく行っている、弘前大学白神研究室の江口くん(M2)に、イナゴが集まることはあるか聞いてみました。

そんなことはないだろうという確認の意味でです。

しかし、彼は興味深いことを教えてくれました。

それは、新潟県(彼の出身地)では、夜間のコンビニやライトトラップにイナゴが多数集まることがあるとのこと。

これはかなり意外でした。

おそらく、羽化から性成熟する前の限られた時期に起こる分散行動だと思うのですが、概して以下の二つの可能性があるのかなと思いました。

一つ目は、コバネイナゴの分散の時刻に地理的変異があって、弘前では日中に移動するが、南の方では夜に移動する可能性。

二つ目は、ハネナガイナゴの分散時刻は夜であるということ。

どっちなのかなと気になって調べていると、石川県立大の弘中先生のグループが夜に飛ぶイナゴについて論文を出していることに気がつきました。

https://hokuriku-byochu.sakura.ne.jp/apph/files/articles/68/68-3.pdf

ガッツリと生態的に調べられていて、すごいです。

日本語で書かれているので、地元の昆虫好き少年が読めるのもいいですね。

この研究によると、どうやらハネナガイナゴが夜間に分散行動として飛翔しているようです。(石川県のはなし)

 

コバネイナゴは昼に分散し、ハネナガイナゴは夜に分散する特徴を持っていると言えるかもしれないですね。(それをいうには生理学的な実験も必要だとは思いますが)

身近な昆虫ですが、奥深いです。